「君の名は。」 新海誠 既存ファンの感想 【過去作品と比較】

「君の名は。」 新海誠 既存ファンの感想 【過去作品と比較】

「君の名は。」を見てきました。

ネタバレ含みますので、映画「君の名は。」を見る予定のある方はブラウザバックする事を推奨いたします。

新海誠

新海誠を初めて知ったのは、まだ学生の頃。 実は、映画監督としてではなく、エロゲのOPのクリエイターとして知った所が発端。 その美しい背景や、アニメーションに”エロゲには勿体無い”との声が上がっていました。 クレジットに「新海誠」の名前は出ていませんが、空や光を見れば一発で分かると思います。 ※よく見たら普通にクレジットに「新海誠」で名前出てました。

ef シリーズ

すぴぱら

映画は、秒速5センチメートルから入って、ほしのこえから最新話まで全て追ってきました。 これは、新海作品を全て見ているファンの視点からのレビューになります。

君の名は。は誰に向けての作品か?

今までの作品を振り返ってみると、あまり”王道”といったようなストーリーはありません。 例えば、秒速5センチメートル。 結局相手とは結ばれない。即ち通常ならBADENDとも言えるエンディングを迎えますし、主人公は仕事をやめます。 例えば、言の葉の庭。 ヒロインは高校の教師で、主人公は高校1年生。 先生と結ばれる描写は無く、主人公が振られてエンディングへ流れます。 まあ、言の葉の庭で最終的に結ばれるかどうかは”あえて描かれていない”ので、その後結ばれた可能性はありますね。 王道を描かない。 即ち、”大勢の人に受ける”一般的なストーリーと差別化を図る事で、ニッチなファンを獲得し続けてきた経緯があります。 今回の「君の名は。」は、その差別化を図っていたストーリーから脱却しました。 よく言えば世間一般に受け入れられる王道的作品を全国展開で放映する力を得た新海監督が、「一般向け」に作った力作が「君の名は。」。 悪く言えば、あの何とも言えないような後味を残す新海作品の既存のファンからしたら、「ワシが育てたあいつは変わってしまった…」みたいな事になりえます。 今回、既存の作品を愛するあまり、「君の名は。」を中々受け入れられないコアなファンとお話をする機会がありましたので、下記にその時気づいた事を載せようと思います。

既存の作品と「君の名は。」の対比

鳥が飛ばない

新海作品でなぜかよく飛ぶ鳥。 今回「君の名は。」では、序盤に飛んだきり鳥は飛びませんでした。 やはり、今までのファンとしては飛んでほしかったようです。

主人公が心の声を喋らない

もちろん、全く喋らない訳ではありません。 が、今まであった新海作品は、長ったらしい程に、自分の心情を”声に出して”喋ってくれます。 そうする事で、登場人物が”何を考え”ているのか、どういった思想でどんな行動原理で動いているのかが、非常に分かりやすかった。 そして、そこが新海監督の演出が上手い所でもありました。 美麗な背景のおかげで、少々クサイ事を言っても許されるし、そういった心の機微を、”芸術的に”描いた作品が新海作品の醍醐味でもあった訳です。 「君の名は。」では、あまりそういった感傷に浸ったような心情を語るシーンは少なく、登場人物の思想や行動原理が薄っぺらく見えてしまう。 当然、セリフや実際の行動から登場人物の心を想像するのは、アニメーションに限らず映画でもドラマでも当然の事ではあります。 しかし、そこを丁寧に描くのが新海作品の魅力であった事を考えると、やはり一般受けする作品を狙ったという事が分かりますね。 長々と心情を語る映画よりも、そちらの方がきっと受け入れられやすいでしょうから。

音楽

「君の名は。」では、RADWIMPSを起用している所に注目が集まっているようですが、 既存のファンからしたらやはり天門さんの音楽が無かった点が気がかりです。 新海作品のコアなファンは、あの美麗な背景とこのBGMが合わさると、もうそれだけで満足してしまう体になっているのです。 そこにRADWIMPSを流し込むと、どのような反応をするのか… 僕はそこまで気になりませんでしたが、人によっては拒絶反応を起こしてしまうかもしれません。

「君の名は。」は大衆向け作品としてリリースしている。

多くの人がその映画を気持ちよく見られて、感動もする。 これって、結構凄い事だと思います。 きっと”アニメ映画”を見る層を大きく開拓してくれるはずです。 しかし、それと同時に貴重な、新海ワールドは失われてしまった…と言うと言い過ぎかもしれませんが、以前のような作品がまた見れるかどうかは分かりません。 きっと新海監督に求められる映画が大きく変わってしまった一つの転換点に「君の名は。」が存在しているのです。

個人的な感想

「君の名は。」はかなり楽しめた作品となりました。 男女の入れ替わりという使い古されたツールを使って、時間軸をずらす新しいトリックを取り入れた所は評価に値するし、よく思いついたと思います。 それは、遠く離れた主人公とヒロインの間でしか成立せず、かつ今回の話ではそれを有効に使えているように思う。 なぜ年が違う事にスマホがあるのに気付かないのか?とか、彗星が落ちる大事件をニュースで見ているのに、糸守になかなかたどり着かなかった理由がよく分かりませんが、そういった些事に気付いたのは上映後。 上映中は、そういった部分に焦点が合わないような演出、構成になっていた気がします。

「君の名は。」のテーマ

新海監督は、今まで”時間”を主軸に置いた作品をたくさん作ってきました。 例えば、「ほしのこえ」は距離が開くにつれて、メールが届く時間がどんどん開く話だし「秒速5センチメートル」では、好きだった者同士が、時間の流れによって別々の道を歩むその姿を描いています。 「君の名は。」もやはり時間を上手く利用し、それを「糸」というテーマで上手に表現しています。 そして「糸」の優秀な所は、映像で見ても非常に美しい所。 今回出てくる1000年に一度の彗星に関しても、糸のような映像表現をしていて、そのあたりを噛みあわせるのが本当に上手いと再認識させられました。

「君の名は。」の構成について

君の名は。の構成は、前半と後半に大きく分ける事ができます。 前半は入れ替わりをコメディチックに描き、後半は入れ替わりの真相へ大きく踏み込んで行きます。 当然、このような構成にしたのには理由があるはずで、恐らく新海監督が求めたのは、一般的にどんでん返しと呼ばれるような大量、かつ短時間での伏線の回収。 今までの新海作品にはあまり無いクオリティの、伏線回収だったように思います。 この伏線回収がしたくて、君の名は。の設定は練りこまれ、キャラクターの設定を考え、背景や物語を後付で作ったような、そんなレベル。 具体的な話をしていくと、観ている人が当然だと思う部分、補完する部分のミスリードから始まります。

「君の名は。」の伏線、ミスリードの考察

瀧と三ツ葉の時間軸が違う

多くの人が驚いたであろうトリック。 前半では、まるで同じ時間軸で物語が展開しているような演出でミスリードを誘っています。 前述しましたが、なぜスマホを使っていたのに、今が何年なのか瀧も三ツ葉も気付かないのか。 目覚めると記憶が曖昧になる設定で吸収される話では無い気がします。 あるいは、気付いていてメモに、ブログに残さなかったのか…? 何かまだ明らかにされていない制約があって残せなかったのか…?

1000年前の彗星

千年周期で廻る彗星と、糸守の守り神の関係。 なぜご神体が、神社から離れた所にあるのか? →前回彗星が来た時に落ちているから。 後半は、ご神体が眠る洞窟の壁画で、過去にも同様に彗星から分裂した個体が隕石になったような絵が映し出されます。 歴史は繰り返す系の話。 見たところ、糸守の湖は過去の隕石落下のクレーターのように見えますが、それでは2000年前はどうなっていたのか? ただ単に2回連続で同じ場所に落ちただけなのか? このあたりの設定がきちんとしているならば是非映画で分かるようにして欲しかった。

瀧と三ツ葉は、過去に一度会っている

映画で最初の方に、糸?紐?を受け取る瀧の回想が入ります。 一番根が深い伏線で、回収も最後の方です。 三ツ葉が髪をバッサリ切ったタイミングと、三ツ葉が東京へ行ったタイミングが同じ。 名取(悠木碧)「失恋したんじゃない?」とか言っていたのは、ある意味正しく、自分の事を知らない瀧と出会った三ツ葉は、髪をバッサリ切ったのです。 そしてそのすぐ後に、糸守へ彗星が落ちる。 髪を切ったその日(あるいは数日以内)に、再び口噛み酒を飲んだ瀧と入れ替わるというハードスケジュールになっています。 この間、あまりにも三ツ葉が持っている情報が少ない。 彗星が落ちる情報は持っているのか? 避難計画の情報共有はできているのか? 見たのは一週間前なので、細かい所までは覚えていませんが、おそらくほとんど情報共有できないまま、三ツ葉は走りだしたような気がします。

ファンサービス

新海ファンなら気づいたと思いますが、言の葉の庭のヒロイン「ゆきの先生」が出ていました。 元気に教師をやっている姿が見られて、ファンはきっと興奮したと思います。 劇場で見れなかったのですが、ゆきの先生が指輪をしているかどうか、もし確認してくださった方がいたら教えて頂けたら幸いです。

まとめ

「君の名は。」は、テンポよく見られる 一般向けの高クオリティなアニメ映画として、万人にオススメできる作品だと思います。 今までの新海ワールドとは別ものだと思って見て頂きたい。

君の名は。 映画 新海誠 感想 レビュー

公式サイトから。 ぜひ映画を見た後にこの絵を見て欲しい。

それでは!

四ツ葉かわいい