アトムレンズとは?
まず先に、アトムレンズについて簡単に説明します。
そのまんまですが、放射性物質を含んだレンズを総じてアトムレンズ、放射能レンズと呼びます。
なぜレンズの中に放射性物質が入っているのかと言うと、それはガラスの屈折率を上げるため。
ガラスを曲げると光も曲がる特性を利用してレンズは作られているのですが、ガラスに放射性物質の一つであるトリウムなどを入れると、光の屈折率が上がるのです。
つまり、ガラスをあまり曲げずに光だけを曲げる事ができるので、より屈折率の大きなレンズを、無理の無い設計で作る事ができました。
半世紀ほど前に流行ったのですが、放射性物質を入れる危険性もさることながら、レンズの製作技術の向上などから次第に使われなくなりました。
asahi super-takumar 55mm f1.8
1962年に発売された、旭光学工業のPENTAXブランドレンズ。
M42マウントなので、現行のKマウント機にはそのまま付きませんが、変換アダプターが発売されているので問題なく使えます。
一番安かったので、これを購入しました。
正直、AFもついてない時代のものだしハマれば撮れるので安物でも問題ありません。
絞りは連動しませんが、マニュアルで絞れる機構が当時のレンズにはデフォルトで付いているのでそれも問題ありませんね。
追記
SONY α7へメイン機材更新に伴い、下記アダプターを追加購入しました。
こちらもこの値段ですが、十分使えて安っぽくも無いと思います。 何より、広がった画角が使いやすいです。 あと、α7のEVFでのピント合わせがとても楽…
放射線値
さて、気になるのはその放射線の強さ。
asahi super-takumar 55mm f1.8にはトリウムという放射性物質が使われています。
トリウムの半減期は140.5億年。 当然今も放射線を出している事でしょうが、残念ながら計測器を持っていません。
ガイガーカウンターをこの為だけに買うのも馬鹿らしいので、計測している動画を探しました。
計測値を読み取ると、30μSv/hほど出ているようです。
危険性
さて、そんな数字だけ言われてもピンと来ないと思いますので簡単に調べてみました。
画像は、安全安心科学アカデミーから。
まずは単位の変換から。
1m(ミリ)Sv=1000μ(マイクロ)Sv また、ガイガーカウンターはSv/hなのに対し、上記表では「年間」の表記なのも変換時に考慮する必要があります。
何故なら、ガイガーカウンターが示す値は30mSv/h 1時間あたり30μSvなら、2時間で60μSv。
1日だと、30μSv×24で、720μSv。
1mSvにだいぶ近づいてきましたね。
ちなみに、この計算でいくと 1ヶ月で21mSv 1年で260mSv 年間260mSvは余裕で上記表の注意レベル(年間)に入ります。
が、心配無い根拠があります。
それは、トリウムがα線を主に出すところによります。
放射線の到達距離が驚くほど短いのです。
動画を見て頂けたらなら分かると思いますが、レンズの後ろ側に測定器を密着させた場合の数値と、少し離して置いた時の数値の差はあまりにも大きいです。
5cm離すと線量は5分の1。50cm離すと自然放射線量と同等くらいであるらしい。
つまり、このレンズを抱いて寝たり、極端に密着するような使い方をしなければ問題無いレベルである事が分かるかと思います。
また、レンズ発売当時はフィルムカメラしか存在しませんでした。
フィルムは放射線で感光する性質を持っているため、そのあたりも考えられて、やはりある程度抑えた線量にしてあるとは思います。
フィルムへ密着して長時間置いたりすれば感光する話もあるようですが…
アトムレンズ「asahi super-takumar 55mm f1.8」の色
見て頂けたら分かる通り、黄色っぽいですね。
完全に無色で無いのは分かると思います。
これは、ブラウニング現象と呼ばれる高速中性子によるガラスの黒化現象で、長年放射性物質に触れたガラスがこのように黄変していくらしいですね。
ブラウニング現象は、原爆開発時に初めて発見されたものと言われています。
原理は特定されていませんが、紫外線を当てる事によってまた透明になるらしいです。
アトムレンズ「asahi super-takumar 55mm f1.8」の描写
開放で撮影。 やはりF1.8はよくボケます。
被写界深度が狭すぎて、左目にしかピントが合っていません。
おかげで、どこかぶれたような写真になってしまっています…。
何も考えずにオートホワイトバランスで撮影していたので、レンズの黄色味はあまり感じません。
周辺拡大
更にトリミング
こうやって見ると、よく解像していると関心させられますね。
髪の毛あたりを見るとボケも結構綺麗で、光をバックグラウンドにした撮影なんか捗りそうですね。
ただ、できれば右目周辺にもピントが合うように調整するべきでした。
こうなるとファインダーでのピント合わせは困難を極めるので、ライブビューでのピント合わせを行う事になると思います。
最後に
他にもいくつかM42レンズを引き取ってきたので、そちらのレビューも気が向いたら書こうと思います。
※見た感じ、アトムレンズは「asahi super-takumar 55mm f1.8」一本だけでした。
アトムレンズをお持ちの方は、抱いて寝たり腹巻きに仕込んだりなど、常に体に密着させるような使い方はしないように。
また、破損した際は危険ですので絶対に吸い込まないように注意してください。
ガラスが割れて体に入って内部被曝すると危険です。
後玉に使われているらしいので、フィルターなどは無意味かと思います。
距離を取れば安全というのは、裏を返せば距離が取れなければ危険だという事です。
トリウムは、肺に入った時の被曝量が通常の内部被曝より著しく高かったはず。
まあレンズの後玉が粉々に砕ける事は普通に考えれば中々ありませんので、そこまで心配する必要も無いとは思います。
当時「空気も撮れる」と評判だったアトムレンズ。
現代では絶対に作られる事は無いので、その描写を味わいたければ中古で購入するしかありません。
幸い、オークションで1000円くらいから入手できますので、興味のある方は入手してみても良いと思います。
それでは!
追記
こちらにもアトムレンズ「PENTAX Super-Takumar 55mm F1.8」で撮影した写真を掲載しました。
追記 2021/11/20
こちらにもアトムレンズ「PENTAX Super-Takumar 55mm F1.8」で撮影した写真を掲載しました。