映画「カメラを止めるな!」は超低予算映画の新しい形【感想】

ネタバレあり感想

ここからネタバレあり感想になります。
本作の構成は2部に別れています。

前半

ゾンビ映画長回しパートです。
37分間、ノーカットで撮影されています。

ゾンビ映画の撮影中に本物のゾンビが襲来する。リアリティーにこだわる監督は撮影を続行しカメラを回し続ける。本気で逃げ惑う俳優陣とスタッフ、そして監督。ありがちな筋立て、いかにも低予算なインディーズ作品。こうして37分の短編映画ができあがった、のだが!?[21]
@Wikipedia

ここの部分だけ見ると、かなり低予算のゾンビ映画そのままの様相を呈しています。
途中で「ん?」ってなる箇所があって、前情報無しで行くと不安を煽られます。
例えば、急に立ち上がって座ったり、無駄に怪我の有無を確認したり(最初は過酷な環境でおかしくなったのかとも思いました)、死んだ筈のキャラクターがゾンビでもないのに突然立ち上がったり、間が異常に悪かったり。
しかし、それらには全て理由がありました。

後半

ここで、前半の作品が作中の作品である事が明かされます。
アニメ「SHIROBAKO」の「えくそだすっ!」のような感じ。
劇中で突然、映画撮影の1ヶ月前にさかのぼります。
番組のVTR等を細々と作っていた幸薄そうな監督の元に、映画撮影の話が舞い込んできます。
要約すると、新番組の企画で「カメラ1台。生放送ノーカットでゾンビ映画を撮影する」といったものでした。
この時点でかなり無謀に見えますが、紆余曲折を経て監督は引き受けることにします。
監督と監督の娘の対比
このパートで一番大事なのは、
「安く、早く、質はそこそこ」で売っている監督と、「絶対に妥協をしない監督の娘」の二者を上手く描いている所ですね。
監督は何かの番組のVTR撮影中、特に俳優に何も伝えずに目薬を渡して泣くように指示します。
俳優は「これ何が理由で泣いてるんでしたっけ?」とか言う始末で、しかし特に説明もなく泣くように指示します。
おっさん「セリフ噛みましたが大丈夫ですか?」
監督「ああ、ここはナレーション被せるんで大丈夫です」
みたいな会話から、役者へ十分なコミュニケーションをとっておらず、クオリティを軽視している様子が伺えます。
娘もテレビ関係のAD?っぽい仕事をしています。(監督とは違う現場)
撮影中の子役に対して、「目薬なんか使わなくても泣けるようにならないと駄目!」と強く主張します。
しかし現場は、目薬を使って早く撮りたい空気感で、結局子役の親と対立してトラブルが発生してしまいます。
こんなに対局の父と娘なので、仲はよくありません。
家庭でも、父を疎んじる様子が描写されています。
監督を引き受け、リハーサルで絶望する
娘との仲を修復したい監督は、一度蹴った「ゾンビ映画の企画」に娘が好きな俳優が出る事に気づき、引き受ける事にします。
そこで集まった、あまりにもめちゃくちゃな出演陣。
・軟水でないと腹を壊すと、キレ散らかすハゲ。
「メールしましたよね?すみませんじゃないよ!」
・完全アル中で、酒を飲まないと手が震えるオジサン。
「酒が原因でさ、娘とは何度も絶縁されてるんだよね…」→突然の号泣…
・事務所が〜と言って汚れ役を回避するアイドル。
「私はやりたいんですけど〜事務所が駄目だと思うんで〜よろしくでーす^^」
・脚本について意見し、認められないと不機嫌になる主人公の青年。
「ゾンビは意思が無いからゾンビなんですよね?斧を持って攻撃してくるのはおかしいですよね?」
他にも、コミュ障っぽい青年や、明らかに恋愛関係(不倫?)に発展しだす、中年の男女。
腰痛持ちのカメラマンに、ダサい映像手法が大好きな若手のカメラアシスタント。
こんな一癖も二癖もあるメンバーが集められ、監督は辟易します。
生放送本番でのトラブル
ここまで丁寧に説明して、冒頭の37分間のオンエアが始まります。
つまり、これはメイキング映像を見せられる訳ですが、こんなバラバラのメンバーでぶっつけ本番を撮るとトラブルが発生するのは目に見えていますね。
ここがこの映画の面白い所、笑える所だと思います。
不倫していた、映画監督役と、AD役のおばさんが、事故で突然来れなくなります。
「なんで二人揃って事故なんですかね」
「完全にデキてただろ…!」
しかし撮影は生放送で、オンエアの2時間前。
見学に来ていた監督の妻が、脚本を読んでいた事から、
・監督役は、本当の監督。
・AD役?は、監督の妻が担当して、オンエアを迎える事になります。
ただでさえ問題児だらけの中で、役に入りすぎて女優を干された妻が乱入し、撮影はカオスを極めます。
アル中が差し入れの酒を飲んで、撮影中酩酊状態で熟睡したり(監督が後ろから抱えて動かしていました)、本番前に間違えて硬水を飲んだハゲが、お腹を壊して突然ゾンビが居る(設定)の外に飛び出して行ったり、とにかくカオスです。
それでも生放送で長回しなので、カメラを止める訳にはいきません。
なんとかしようと裏で奔走する監督とスタッフ。
放送中止を考えるプロデューサーやスタッフを、監督の娘がいなします。
「○ページの○行から○ページの○行まで飛ばせば修正できる!、Pは判断!早く!時間がない」みたいな。
彼らはめちゃくちゃな環境で、上手く行かなくて、限界を超えた状態で楽しんでいるのです。
例えば、部活動や、文化祭。バイトで死ぬほど忙しい時に発揮されたチームワーク。
人がなにかを作る時に感じるカタルシスをこんな形で表現した映画は見たことがありません。
このパートで撮影裏を見せる事で、前半パートで違和感を覚えた箇所の伏線が回収されていきます。
カンペで「つないで!」とだけ書かれて、急に趣味について聞き出す主人公や、何度も怪我の確認をしだす監督の妻。
「オノは部屋の外」のカンペを持ったスタッフの足に、ゾンビのメイクをして登場させたりと、前半と後半の組み合わせで明らかになるメタ的な要素がたまりません。

最後に

映画を撮影する苦悩と、その楽しさ。
バラバラな役者達がおりなす、コメディチックなシーンの数々。
そして、盛り上がっていく中で見せた、監督の心の底に眠っていた、クオリティを求める心。
監督と娘の和解。
その全てが、綺麗に料理されてエンディングを迎えます。
これはゾンビ映画じゃありません。
「映画を撮る楽しさと苦悩」を、めちゃくちゃなゾンビ映画を通してメタファー的に伝える意欲作です。
そしてこの映画は、年々制作費が大きくなっていきCGが発達していく中で、
面白い映画とはなにか?お金が掛かっていて、映像が美しいものが面白いのか?
といった大きな問いかけであったように思います。
気になる人は、是非劇場へ。
それでは!